「怒り」と「かなしみ」のエネルギー


 先日、ユースACTプログラムの長期実践コースがスタートしました。半年間かけて、学校の枠を超えた高校生たちが自らの「まち」への問題意識を探りながら、その問題意識に根ざした企画を立案し、実践していくこととなります。

 9月25日のキックオフの場で挨拶を、ということだったので、主催する実行委員会を代表して、高校生にメッセージを投げかけました。僕が高校生に伝えたのは、次のような話です。

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 普段、みんなはどんな感情を抱きながら、暮らしているでしょうか。学校の中で、地域の中で、家の中で過ごす日々、どんな気持ちがわき起こり、そして、鎮まっているのでしょうか。楽しい、ワクワク、気持ちいい、いきいき充実、ホッ、おだやか、つらい、さびしい、ムカつく、くやしい、がっかり、ビクビク、もやもや…様々な感情がある。いま・ここ、みんなはどんな気持ちで座っているのでしょうか。

 僕は高校時代、「怒り」の感情が最も大きなものでした。共に遊び・語らう仲間にも、議論する先生にも恵まれ、部活も生徒会活動も充実したものでした。しかし、高校時代の僕は「怒り」の感情が最も大きかったのです。いつも怒っていました。こんな教育をこの学校はしていていいのか。なぜこんな授業しかできないのか。先生の関わり方は教育としてこれでいいのか。生徒会活動はこれでいいのか。日本の教育はこれでいいのか。震災復興の道のりはこれでいいのか、神戸の海はこのままではよくない…、実に怒りの耐えない日々でした。

 みなさんは「怒り」という感情に対して、ネガティブなイメージを持っているかもしれません。怒らない方がいい。そう思っているかもしれません。しかし、僕はみんなに言いたい。もっと怒ろう、と。

 カナダの心理学者、パット・パルマーさんの著書に『怒ろう』(径書房、1998年)という本があります。少し長くなりますが、この本から引用してみましょう。

 怒るのはいいことだ。腹が立つ。頭にくる。むかつく。いいかげんにしろ。ふざけるな。許せない。顔も見たくない。(略)
 あなたは怒りを「悪い感情」だと思っているかもしれない。だけど、怒りは本当に「悪い感情」だろうか。もしかしたら怒りは、私たちにだいじなことを教えてくれているのかもしれない。(略) 怒りが、行動したり決断したりする勇気を、あなたに与えてくれることもある。怒りによって、まちがった考えや不公平に気づくことだってある。(略)
 怒ってもいい。だいじなのは、怒らないことじゃなくて、怒りに支配されないこと。怒りに支配されているとき、あなたの身体は固まっている。顔が赤くなっている。歯を食いしばっている。顔がゆがんでいる。拳を握りしめている。心臓の鼓動が速くなっている。そういうときは要注意。(略)
 なにがあなたを怒らせるのか、それがわかったら、慎重に、やさしく、だけど毅然として、問題の解決にあたろう。ぶつぶつ文句を言っているだけでは、なにも解決しない。暗い顔をして、口を開ければ不平に不満。そんな人生を送るのはやめたほうがいい。上手に怒れる人は、たいてい、とっても魅力的な人だ。(略)
 あなたの怒りは、人を傷つけるためにあるのではなく、あなたを守るためにある。そして覚えておいて。あなたの怒りは、あなた自身を、そして世界を、よりよいものに変える可能性を持っている。

 「怒りのエネルギー」は、僕を突き動かしました。提案書をまとめたり、演説をしたり、議論の場をもうけたり、各種イベントをつくったり、様々な動きを生み出しました。

 みんなは、今日から「企画」をつくることになりますが、企画を生み出すエネルギーは一人ひとりの内にある「感情」が源になります。その中でも「怒り」のエネルギーは、大きな力になります。

 みんなは、いま、何に対して「怒って」いますか? みんなは、いま、何に対して「ワクワク」しますか? みんなは、いま、何に対して「かなしみ」ますか?

 そんな自分の気持ちを大切にして、これからの日々を歩んで欲しいと思います。もっと怒ろう、これが僕からのメッセージです。

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 この話をした後、シチズンシップ共育企画のインターン生に「つづき」の話をしました。

 「怒り」だけをエネルギーとしている人よりも、深い「かなしみ」もセットでエネルギーとしている人の方が社会を動かすことになる。「怒り」は「自分」の怒りの解消がゴールになる。しかし、深い「かなしみ」は、目の前の「他者」の支援だけではなく、その「他者」のおかれた社会環境の変化がゴールになる。言い換えれば、「怒り」のエネルギーは、活動を起こすものとなり、「かなしみ」のエネルギーは、活動の広がりや深まりを支えるものになると言える。こんな話です。

 高校生が「怒り」と「かなしみ」のエネルギーから、何を生み出すのか。彼ら/彼女らの動きと、その中での成長に期待をしたいと思います。