「生の美学」のために


 非常勤で教えにいっている大阪樟蔭女子大学の図書館から、学生に読書を勧めるため「私のすすめる一冊」を示して欲しいと依頼があり、内山節さんの『哲学の冒険』(平凡社ライブラリー、1999年)を以下の推薦文でご紹介。

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 みんなは、自分がどのように生きると、「美しく生きる」ということになると思うだろうか。そんな問いかけをこの本は、私たちに投げかけてくる。どのように暮らし、どのように考え、どのように悩み、そして、どのように働くことが、「美しい生」につながるのか。みんなは、どう答えるだろう。

 このように書くと、難しい内容に思われるかもしれない。タイトルもなかなかに難しそうだ。しかし、おそれることはない。本書はもともと中学生を想定読者とされていたものであり、一人の少年が様々な哲学と出会いながら、以上の問いを見つけ出し、考えを巡らしていく「物語」となっている。そのため、読者は主人公と共に哲学の冒険の道を自然に歩んでいくことができる。

 ただし、大事なことは、生きかたの「美しさ」の基準を他者に委ねない、ということである。哲学者の言葉に依存するのではなく、哲学者の言葉を手がかりにして、自らの内に自らの手で「美しさ」の基準をつくる。それが、美しく生きることの第一歩であり、きわめて重要なことである。本書はその有効な支えとなる好著だ。

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 学生さんは夏休みを迎えることになりますね。今はレポートや試験のために本を読んでいると思いますが、授業から解放される休暇中には、ぜひ自分の「美しい生」のために本を読んで欲しいなと思います。