起業家ばかりでどうする!?

 最近、ちょっと気になっていることがあります。社会起業家(志望)を名乗られる若者が増えたなぁということです。



 同じ若者で、同じように市民セクターから社会をよりよくしていこうという仲間が増えることは確かに喜ばしいことではあります。しかし、どこかに違和感を持つことも時々あります。



 私が活動を始めた11年前からは考えられもしなかった程に、今は団体をつくりやすくなりました。自分が講師をすることもありますが、色んなマネジメント講座や相談支援窓口も増えましたし、関連書籍も考え方から事例紹介・実務サポートまで幅広く揃いました。ICTの発展でホームページ(やブログ)が創りやすくなり、革新的に情報発信が簡易になりました。インキュベーションオフィスも増えました。助成金のメニューも多彩になりました。



 こうなると、少し意欲の高い人間であれば、すぐに団体を立ち上げるようになるのは、ごくごく自然のことかなと思います。何か活動しようと思った時に、どこか活動先になる団体がないかなと検索するよりも、自分で活動先を創った方が早いし、自由です。



 そのためか、既存のNPOで「今後その団体の次代を担う人材」と言われた人が、気がつけば新規団体を自分でつくって起業・独立した、という話も増えたように思います。かくいう私もそう分類されるのかもしれません。



 社会起業家が増えることも、独立することも決して悪いことではありません。



 しかし、既存の、しかもそれなりにソーシャルインパクトを与えている団体の次世代育成が余り、うまくいっていないことの背景要因の一つに、もしこうした起業・独立志向があるのであれば、少し考えないといけません。



 現場叩き上げできた創業者世代から次の世代へと各団体内でリーダーシップを移行させていくことの困難は、日本のみならずアメリカでも「問題」として表出しています。最近、神戸の既存リーダーとの会話でもこの「世代交代」が話題になることも多く、問題意識が広がってきています。次を担うマネジャーはいてもリーダーがいない、という問題意識です。



 もちろん、既存の老舗団体を延命させることが何が何でも大事とは言いません。



 しかし、小さくこじんまりと活動するところが増えても、ソーシャルインパクトはなかなか出せないようにも思います。起業・独立するような、アントレプレナーシップやリーダーシップのあるメンバーが散らばるよりも、プロジェクトベースであっても、どこかで集約的に活動することの方が、インパクトは出るでしょう。



 その際、既存団体で、しかも、何かしらのソーシャルインパクトを与えて、地域社会からの信頼を得ている団体があるのであれば、そこをきちんと盛り上げることの方がインパクトを出しやすいとも考えられます。



 起業も独立も手段に過ぎません。本当に社会にインパクトある活動をするのであれば、もしかしたら、起業・独立ではなく、既存団体で新規事業を立ち上げ、確立させるようなかたちで、アントレプレナーシップを発揮することが望まれることもあるでしょう。



 僕自身もこじんまりした活動をしているので、どこかでスッキリした物言いにはならないのですが、最近ちょっともやもやっと考えさせられていることの一つです。みなさんはどう思うでしょうか。



 ちなみに、リーダーシップの継承について、前リーダー、しかも創業者世代のバイタリティ溢れる人の「全て」を一人で継承しようとしないことが大事でしょう。それは「無理だ」という気持ちしか育みません。複数の後継者で分割しながら、その上で継承者の持っている強みや、組織内外の課題から、何を特に継承していくのか、メリハリをつけていくことが求められるでしょう。



 2003年に淡路で「次のリーダーシップを育てる」という各団体内での世代交代に関するワークショップを担当しましたが、そのときは学生団体相手でした。今後は、一般のNPO対象にこうした話をすることが増えるのかもしれません。



 なお、リーダーシップの継承については、『NPOジャーナル』21号でも特集されています。その特集の中でアメリカでの動向を紹介しているサードセクター・ニューイングランド事務局長 ジョナサン・スパックさんの論文に、私なりに補足する問いを立ててみたいと思います。ぜひ同情報誌とセットでお読みください。



(1)リーダーシップの継承にあたって、知識やスキルの継承は簡単であるが、そうした知識やスキルを状況状況で使い分ける判断力(思考過程)は継承可能か?



(2)リーダーのもっているネットワークや外部との信頼関係をどのように引き継ぐか?連絡先の継承はできるが、(そのままではないにせよ)関係性をどのように「つなぐ」か? 



(3)リーダーシップの継承について、団体内外の関係者の理解をどのように形成するか?当然、リーダーシップの継承は、単なるコピーロボット養成ではないので、その人らしさが発揮されていくことになるが、それは少なからずリーダーシップの「スタイル」に変化をもたらす。何が変わらず、何が変わるのか、何が引き継がれ、何が引き疲れていないか、周囲の適切な理解がなければ、「昔はよかった…」といった回顧的な話が常に新リーダーの滑り出しに付着してしまう。移行プログラム上で関係者をどう位置づけるか?



 こうしたことを踏まえながら、中間支援はどのような学びの場や環境をつくっていくことが望まれているのでしょう。20年後を見据えて、これからの10年で何に取り組むべきなのか、セクター全体を見渡しつつ、真剣に考えたいところです。