『初年次教育ハンドブック』

syonenji.jpg 出張の移動中に、一冊、最近購入した本を読了。大学コンソーシアム京都にいたことで、ぐぐっと関心が高まったテーマが「高等教育のあり方」ですが、今回読んだのもその文脈の専門書。最近、高等教育関係者の中で非常によく話題にあがる「初年次教育」のテキストと言える本です。



 M. Lee Upcraft, John N. Gardner, Betsy O. Barefoot, 2005, Challenging and Supporting the First-Year Student, WILEY(=2007年、山田礼子監訳『初年次教育ハンドブック』丸善



 初年次教育とは「一般的に高校から大学への学習面、生活面を含めての円滑な移行を目指すための教育であると定義できる。具体的には、(1)スタディ・スキル(一般的なレポート・論文の書き方や文献の探し方、コンピュター・リテラシー)の教育、(2)進路への明確な動機づけを含むスチューデント・スキル(大学生に求められる一般常識や態度)の教育、そして、(3)専門教育への橋渡しとなるような基礎的知識・技能の教育、の三つの側面」(同書監訳序文より)で構成されるものです。



 この本では、初年次教育の組み立てにあたって「挑戦と支援の均衡が取れていれば学生は大学で成功するということにつながる」(同書原著序文より)という考えをコンセプトにおいていますが、明快な論理で「なるほど」と思わされます。この「挑戦と支援の均衡」は,初年次教育のみならず、教育の中では多方面で言えることでしょうね。



 そうした「挑戦と支援」の具体例が多く掲載されていて、大学業界人には参考になることが非常に多い一冊ではありますが、次の部分は、学生ボランティアを抱えるNPOにとっても気にかけても良いようなところです。



 同書では、初年次教育の成功を定義する際の大きな枠組みとして、次の8項目を挙げています(pp.10-13)。「知力および学力の育成」「人間関係の確立と維持」「アイデンティティの発達の探究」「職業の決定」「健康状態の維持」「信念と人生における精神性の検討」「多文化に対する認識の涵養」「市民としての責任感の涵養」。この8つです。



 大学生という存在と一緒になって動く大人は、大学人であるないに関わらず、学生が身につけるべきものとして挙げられている、例えば上記8項目のようなものが、(全てではなくても一部でも)きちんと獲得できるよう、「挑戦と支援」を適切に提供することが求められるように思います。



 学生ボランティアのマネジメントという時には、マネジメントの論理だけではなく、こうした教育的観点からの論理も組み立てていく必要があるでしょう。幾つかの大学で非常勤として教えだして、正課と(学内外問わず)課外の一体化が求められていることを強く感じます。



 「大学教育」というそのものが、何のために/どのように取り組むのか、本当にイノベーティブに考えていかないといけないでしょうね。同書の先進事例はまさにそのことを我々に提起してくれます。