「民藝運動」に触れた1時間

zu_yanagi.jpg 今日は、この博物館で会議があったのですが、会議の終了時に、明後日までの特別展示の招待券をもらったので、会議室からそのまま展示コーナーへ足を運びました。



 今回の特別展示は「柳宗悦の民藝と巨匠たち展」。いやぁ、実に素晴らしい展示でした。流し見る程度の気持ちで行ったのですが、ついつい「ぐぐっ」と引き込まれてしまいました。展示されている工芸品が良かったのは当然ですが、そうした工芸品に支えられて、洗練されていった理論であり、運動である、柳の「民藝」論に触れられたのが、良かったです。



 「民藝」とは何かということについては、長くなりますが、柳の「民藝の趣旨」(『民藝四十年』(岩波書店1984年)に所収)より抜粋引用して、紹介しましょう。



 「民藝」(民衆的工藝)とは云わば貴族的な工藝美術と相対するものです。一般の民衆が日常使う用器が民藝品なのです。我々の生活に必要な品、即ち衣服、家具、食器、文房具など、皆この範疇に入ります。(中略)



 ただ民衆的な実用品と云っても店頭に並ぶあらゆる安物も民藝品と呼ぶことはしません。民藝品が当然有すべき特質を規定すると「用の目的に誠実であること」が本質です。利益を求め、用が二の次という商業主義で作られる品は、用に不忠実なものです。(中略)



 質よりも見かけに重きを置いたり、親切に作るより出来るだけ手をぬいたり、色が俗だったり、姿が痩せていたり、じきにこわれたり、剥げたりするなどのものは用に対して不誠実です。このような品は不道徳な工藝品と呼びたいです。(中略)



 それ故民藝とは、生活に忠実な健康な工藝品でなければなりません。我々の日常のよき伴侶であるべきで、使いよく便宜なもの、使ってみて頼りになる真実なもの、共に暮らしてみて落ち着くもの、使えば使う程親しさの出るもの、これが民藝品の徳性です。 




 1925年に生まれた「民藝」という言葉が提起した問題は、(消費社会が進展した分)最近のプロダクツにこそ、あてはまることが多いですね。



 この民藝運動の波及は、地に根ざした生活者の視点がもつポテンシャルを顕現化させたと言え、ある意味で生活者運動の視点を内在化させた動きの先駆けの一つだったと見做せるのではないかと思います。



 生活者の視点が持つポテンシャルは、もちろんアートの領域に留まるものではないでしょう。最近のNPO業界では、「生活者」という(日本独特の)概念(言葉)が昔ほどに使われていませんが、もっと大切に取り扱うべきではないでしょうか。



 なお、同展、京都での展示は29日までで、次の展示先は沖縄(2/14-3/12@沖縄県立博物館)となります。その沖縄での展示で、この企画は終了なのですが、幸いにして、図録はネット販売もされています。ちょっと高いですが、見ごたえは十分だと思います。