シチズン・リテラシー

clbook.bmp 鈴木崇弘ほか編著『シチズン・リテラシー−社会をよりよくするために私たちができること』教育出版、2005年



 本日、この本をシティズンシップ教育推進ネットの大久保さんからご進呈いただきました。大久保さんが分担執筆されていることもありますが、出版元にお勤めということもあるのでしょう。



 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、私が立教大学に提出した修士論文は「公共圏と市民的リテラシー教育」に関するものでした。その意味で、関心を寄せざるを得ない一冊です。主張やスタンスが、重なるところ/重ならないところ、両方があったので、特に「重ならないところ」に留意しながら読み進めたのですが、基本的には、良い一冊だなと思います。



 リテラシーとは、「読み書き能力」という意味で認識されていますが、そもそもは「教養」をさす言葉で、同書のいう「シチズンリテラシー」もそういう意味で使われており、「市民」がわきまえておくべき考え方や事柄を丁寧におさえ、その上での「市民」としての行動の起こし方を大まかに提示しています。



 「民主主義」や「市民」といった、ともすれば曖昧な理解となってしまいそうな「根っこ部分」にしっかりとこだわりつつ、非常に平明な文章でそれをまとめていることは、同書の良い部分でしょう。



 ただ、(解説的な部分がメインとなりがちな)「教科書」という位置づけのため、なかなか込み入った議論が行いにくいのかもしれませんが、もう少し書き手個々の考えや独自の主張が「シャープに」出ると読み応えがあったように思います。同書が掲げる「日本型民主主義」についても、もう少し歴史的な視角がなければ、「日本型」というものを整理するには、物足りないかなと思われます。



 また、これは個人的な関心にも拠るところなのですが、社会的排除によって、「なりたくても市民になれない」人々に関しての議論があれば、奥行きをもたせれたはずです。これは続編、或いは後続する議論に期待、というところでしょうか。



 このような一連の私の要求は、「たたき台」を標榜する同書に対して、欲張りに過ぎるかもしれません。この本を読んで「終わる」のではなく、この本を読んで、理論的/実践的な取り組みを「始める」ことが読者には求められるでしょう。



 何はともあれ、私の修士論文よりかは、分かりやすく、腑に落ちやすいことは間違いありません。市民活動の実践者にも、改めて考えを深めるために、オススメの一冊です。