「仕事って何だ?」


 今春よりシチズンシップ共育企画は職員を採用したのですが、職員採用は初めてのこと。当然ながら、自社の新規採用職員の研修も初めてのこと。僕と一緒に働くことを決めてくれたことにしっかり報いたいし、他団体の人材育成を支援している身でもあり、研修等をはじめとする人材育成についてはしっかりやっていかねばと思っています(相方からすれば、なんとお節介な話かもしれませんが)。


 先月には、シチズンシップ共育企画の運営委員もしてくれている小林健司くん(NPO法人JAE)と僕の二人が講師として、一泊二日の合宿研修も実施。その第一セッションのテーマは「仕事って何だ?」。小林くんに担当をお願いしていたので、どんな感じで進めるのかなと、自分も楽しみにして参加。冒頭、小林くんから出されたのは、以下の3つの質問でした。


1.強みについて:あなたの卓越性は何か?

2.人間的成長について:個人としての成熟をあなたはどのように捉えるか?

3.予期せぬ成功:あなたはこの1年間でどのような予期せぬ成功をしたか?


 この3つの質問に答える中で、「自分の仕事(観)」が浮かび上がっていくとのこと。よし、僕も書いてみようということで、一年間を振り返って、書き上げました。その内容の一々は明らかにしませんが、自分が人間的な成熟を「判断」と「態度」を軸に捉えていることが浮き彫りになったり、経験のまとめあげが進みました。個人記入後は、それぞれが書いた答えを分かりあいながら、気になったことを聞きあったり、思ったことを言いあったりして終了。セッションの最後では、自分がこの質問に答える中で浮かび上がった「仕事って何だ?」を述べました。そこで述べたことはこのようなことです。
 

 たとえフリーランスであっても多くの場合、人間は仕事をするために、組織やグループ、ユニットをつくりますが、それはなぜかと言えば、人間が不完全な存在だからです。ドラッカーは『経営者の条件』の中で、「組織とは、強みを成果に結びつけつつ、弱みを中和し無害化するための道具である」と述べていますが、私の弱みをあなたの強みが中和し、また私とあなたの強みのかけ合わせが相乗効果を生み、大きな成果を生む。そうした機能が組織にあるから、私たちは組織をつくって仕事をすることになります。


 この前提に立った時、組織で働く一人ひとりは、自らの強みに気づき、他者の強みとどのようにかけ合わせば、成果を最大化できるかを考え、行動することが求められます。では、自らの強みはどのようにして気づくのか。自分の強みですから、自分で自覚できるという部分もありますが、すべてを自らの手で自覚できるわけではありません。他者からのフィードバックや、「予期せぬ成功」という経験からのフィードバックから、自らの強みが明確になっていきます。特に「予期せぬ成功」には、自らでは思いもよらない強みが形づくられていっていることを、自らに気づかしてくれることでしょう。

 
 こうして自覚された強みを結びつけて生み出した「成果」に対して支払われるものが「お金」ですが、そもそも仕事の依頼というのは、他者が捉えた私(たち)の強みに基づき、「この人とこういう仕事をしてみたい」という思いが原点にあり、自他でその思いを分かつメディアとして貨幣が用いられて、形になっています。そうした仕事の依頼者の温かい思い(期待)に応え、予想通りの、時に予想を上回る成果を生み出していきながら、信頼関係をつくり、深めていくこと、それが自分なりの「仕事をする」ということの定義です。


 ちなみに、私の場合は、自分の強みを見出していただいた先輩方に「川中くんを使ってみてよ」とあちこちでご推薦いただき、仕事の依頼がくるようになりました。依頼者が「この人とこういう仕事をしてみたい」という思いを抱くにあたって、先輩方が保証人となってくださったということです。ですから、自分の「強み」に磨きをかけ続け、きちんと仕事をすることが、保証人になっていただいた先輩方への報いであり、そうした保証に基づいて「よくわからへんな」と思いながらもご依頼いただいている方々へ感謝の表現だと思っています。


 「仕事は他者への感謝表現の行為の一つである。」

 もちろん、仕事の定義の仕方には色んな方法があります。成果(NPOの場合であれば社会変革)に照準をあわした定義もあるでしょう。こうした関係性に照準をあわした定義もあるでしょう。あるいは、自己実現に照準をあわした定義もあるでしょう。どれが良い悪いということはなく、寧ろ何に照準をあわして自らが定義するのか、そこに「いま」の段階で、私が仕事をどのように捉えているのかが明らかとなることでしょう。


 ただし、こうした仕事の文脈だけで個人の生(life)を語れば、仕事/組織/成果のためだけの個人のようになってしまいます。そうしたある種の「埋没」や「倒錯」を防ぐために、個々人が「人間の成熟」を自己定義し、その定義からして自らの生がどう豊かになっているか/解離してしまっているか、仕事が自己成熟にどうつながっているか、定期的にチェックする必要があるでしょう。


 「強み」「予期せぬ成功」、そして「人間的成長」。この3つは、確かに「仕事って何だ?」を考える上で、非常にいい問いかけでした。


 なお、今回行っている、シチズンシップ共育企画の新規職員研修は、(1)まず新規職員に学びたいことや仕事をする上で不安なことを書き出してもらい、(2)運営委員とその内容を踏まえながら、これは学んで欲しいと思うことも勘案し、(3)研修プログラム案をまとめて合意をしてから開始。2月第一週の夜は毎晩、運営委員が入れ替わり立ち替わりで講義/実習を提供し、まとまった時間が必要なものは今回の合宿にまとめて実施しました。もちろん、人材育成は研修だけでは無理なので、OJTワークプレイスラーニング、ふりかえりなど、色々と組み合わせて取り組んでいます。今年一年は、わが社にマッチした人材育成システムがどういうものかを、やりながら見いだしていくことになりそうです。