シンプルデザインが教えてくれること

 今週から新しいMacを仕事で使っています。念願の「MacBook Air」です。



 これまで使っていたMacBookはスタッフ共用とし、家のiMacは引き続きバックアップと自宅作業用に用い、中心的に使用するPCに「Air」を据えることとなります。ネットワーク環境の弱い我が家では、データの移送で手こずり、ここ一週間は三台のMacが常に動き続けている状態でしたが、それはそれで圧巻でした(笑)



 封筒から出てくるCMで話題になった「Air」といえば「うすい」、という言葉がすぐ出てくるわけですが、その薄さのデザインの奥にあるメッセージは、私たちが「ほんとうに必要なもの」とは何か?、というものだと、僕は受け止めています。



 iPhone登場の時に各種メディアで報じられていましたが、(全部が全部ではないものの)多くのメーカーは「あれもこれも」と機能を増やしていき、フル装備化を目指して開発してきたと言えます。新機能搭載、この言葉が売り文句ですよね。



 しかし、Macはそうではないと言えます。Airを使えばわかりますが、USBポートは1基しかなく、CD/DVDドライブはなく…と、案外「ない」ものの多さに気づきます。必要に応じて、外付けのドライブやUSBハブなどを買い足し、その時々に使うことになります。



 実に当たり前すぎることなのですが、日常的にUSBのポートをいくつも同時に使うことは珍しく、CD/DVDだってそんなに頻繁に使いません。本当に日常的に必要なものは、大変少ないわけです。



 本当に必要なものだけになるまで、削り落としていく。このシンプルデザインの発想は実は市民組織のマネジメントにも重要な示唆を与えてくれます。



 マネジメントも手をかけ過ぎると、「あれもこれも」と幅広く考え過ぎ、議論の時間が長時間化したり、マニュアルまみれになったり、会議等のインナーコミュニケーションの量が膨大化したりしていきます。そして、マネジメント業務に多くの時間と労力をとられることになります。



 しかし、市民組織は多くが小さな組織です。小さな組織がその負荷に耐えうる、シンプルマネジメントが望まれるものでしょう。



 会議やミーティングの数、書類やマニュアルの数、メールの数、報告の回数、チェックの回数、ルールの数…、色々と見渡してみて、削れそうなところをとにかく削ってみると、何が残るでしょうか。小さな組織をマネジメントする上で、本当に必要なものは、何でしょうか。



 本当に必要なものを自問自答するということは、結果的には、いらないものを捨てることでもあります。この”捨てる”という行為が難しい。なぜなら、それは自分のなかの”不安との闘い”だからです。(中略)しかし、その不安は本当に根拠のあるものでしょうか?(中略)捨てることは、不安との闘いだと述べましたが、”とりあえず”との闘いでもあるのです。佐藤可士和佐藤可士和の超整理術』日本経済新聞社、2007年、pp.79-86)



 もうお一人、デザイナーの言葉を続けましょう。



 無印良品は逆の方向を目指すべきである。すなわち「これがいい」ではなく「これでいい」という程度の満足感をユーザーに与えること。「が」ではなく「で」なのだ。しかしながら「で」にもレベルがある。無印良品の場合はこの「で」のレベルをできるだけ高い水準に掲げることが目標である。(中略)



 僕らは今日「で」の中に働いている「抑制」や「譲歩」、そして「一歩引いた理性」を評価すべきである。「で」は「が」よりも一歩高度な自由な形態ではないだろうか。「で」の中にはあきらめや小さな不満足が含まれるかもしれないが、「で」のレベルを上げるということは、この諦めや小さな不満足をすっきりと取りはらうことである。
原研哉『デザインのデザイン』岩波書店、2003年、pp.108-109)



 「が」ではない「で」のマネジメント論。「あれもこれも」と欲張り、フル装備のようなマネジメントを志向してヘロヘロになっていって、結局全てが中途半端、そうした組織をいくつか観ていて、「で」の世界をマネジメント論でも考える必要性を感じています。